審査過程Judges' Discussion

審査員
浅井

今の時代のモノの考え方は、人間のありようについて議論する暇がない。現実に迫られていることを解決することに追われている。このコンテストも例外ではないように思う。
このコンテストも目の前の与えられた課題に答えようとしているが、そこに未来に対する夢や理想がない。僕はこれだったら世の中楽しいよ、面白いよという単純なことでいいと思う。それよりも目の前の宿題に答えたいという…本人がまず面白がっていないという感じがする。
それから何回も開催しているので共通しているものも来ている。それをどのように選ぶ側が判断するかもあると思う。

涌井

浅井さんの話は非常に根源的な問いだ。確かに今我々は技術解のためにつくっていて、何のためにつくるのか。こうすればできるのと、何のためにつくるのとは意味が違う。経済合理性が高いからという答えだけでなく、空を飛びたいから飛行機ができたような結びつきが希薄になっているのは事実だと思う。それは逆に審査員あるいは協会がどの作品を表彰するのか、こちら側の眼差しの位置がどこなのかも問われている。非常に重たい問いかけをされたと思う。そこは大事な視点だと思う。
何かに使えるとかではなく、何のために何故使うのか。例えばSDGsの延長上でCLTを使えばこういう効果があるかもしれないなどのメッセージが、作品から伝わってこないということだろう。

浅井

そうはいっても選ばなくてはいけない。事務局の立場も明確にしておかないといけない。この素材を通して身近な人間の生活にどのようにいい形を残せるか、つくることができるかだと思う。それぞれが夢をもって参加されていると思う。都合のいいときは実現性だったり、都合のいいときは夢だったりすることが入り交じっているので、判断するのにそのあたりが難しい。

事務局

CLT協会としてもコンテストをどこにもっていくのかが議論になった。本コンテストにある2部門のうち設計部門は実現性にウエイトを置いている。このアイディア部門は実現性よりも少し離れたものを拾い上げていくところに重点を置いている。どちらかというとファンタジー、夢など。

浅井

発想は面白いけれど、表現が下手なのも結構ある。それはどうするか?もちろん逆に表現が上手いものもある。

金田

技術屋として20数年仕事をしてきて思うのは、技術に対する社会の態度にずいぶん振れ幅がある。もう少し技術に対して懐疑的な時代を経て、今は妙にオプティミスティック(楽観的)だと思う。例えばAIみたいなものに対して、かなり手放しでいいことが起こるかもしれないというように。このCLTも新しい素材でどんな夢を見るかというときに、やや懐疑的なメッセージや視点も入っていた方がいいと思う。

浅井

結局、技術的な問題が先行して人が後からついていく。それは僕が身を置いている写真でもそのようなことがある。機材はものすごい勢いで発展している。人間がそれについていけない。けれどもそれを不器用に使いこなしながら、コンペに参加してくるのが現実。専門の人に聞かないと分からないような巧妙な合成があったりもする。どこまでが写真なのか、表現なのかを議論する前に現実の方が先行している。
そのような疑問、投げかけについて俺たちはどうする?ということもここに入っているはず。好意的にみれば皆夢を見ようとしている。でも夢だけを見ていたらコンテストに通らないだろう。そういうことをふまえてどこに着地するか。

事務局

この場では、CLTの可能性を発掘するという位置づけだと考えている。その視点で選んでいただければ。

涌井

辛めの言い方をすると、トイレ(0009)のは夢と絵が遠い。誰でもできてしまう。
電車(0029)のも夢に近いけれどこれもキッチュな夢。もっと本質的な夢がほしい。
東京散歩(0050)はニューヨークのハイラインをそのまま借りてきたようなものに留まってしまっている。
そうすると僕は路地裏の再構築(0035)くらいしかないと思う。なるほどと思うところがある。例えば木密で完全に消滅してしまうような可能性のある路地に、CLTが芝居の書き割りのように不燃性の高い壁を立てて新たな町に改造してしまう。そこまで大胆に書いてないのが残念だが、これはありだと思う。

金田

表現がもっと上手だったら。

涌井

下手だよ。もっとマンガチックに描いてくれれば分かる。

金田

せっかく裏に着目したのだから、あんなに健康的にしない方がよいのでは。

浅井

これは、作者が考えているよりも面白いかもしれない。作者の方がイマジネーションが足りない。

涌井

このビルの脇の路地はものすごく面白い。奥へ歩いた先に旨い昼飯屋があるとか、ああいう面白さは可能性がある。

金田

裏の猥雑さがCLTになったらいいと思う。こんなに明るく開放的なのは変。

浅井

本体があるけれど、さまざまな付属がついて、そこに変化や面白さ文化が潜んでいる。そういう視点は面白い。

涌井

町はAさんからXさんまでもっている。でももっと面白くしたいと言ったときに、ゴミ屋敷の住人、お金のない人、意地をはっている人など多様な価値観の集積だけど、共通解を満たそうとするのに裏路地ということだったら面白いと思う。もっと洗濯物が干してあったり、植木鉢が前に出ていたらもっと面白い。

浅井

そこまで審査員は信頼されていない。

一同

(笑)

浅井

でも皆さんが考えているように、町の中にある思いもかけない連続性や秘密の場所が、人の気持ちをワクワクさせると思う。それに気が付いてCLTを使うのは面白いかもしれない。裏通りは人の心にもあって私情に満ちている。

涌井

しかも表通りの欠陥をCLTを使うことによってある程度解決できる可能性がある。

金田

可能性があると思う。これは東京特有だと思う。ロンドンなど隣とくっつけてよいところは隙間が生まれにくい。東京は民法上、隣の建物と離さないといけない。そこに雑多なものが出ているのが東京の魅力だと思う。
あるものを避けて切り抜いてCLTを嵌めることによって性能を上げるのは面白い。

涌井

木造の醸造小屋と人工物の醸造小屋はまったく違う。木造の醸造小屋は隙間が多く、そこに菌が住みつくのを蔵ぐせと言う。桶ぐせは桶の中にさまざまな菌が住みつく。だから同じ方法で酒をつくっても、一番桶、二番桶、三番桶で味が違う。都市の生活はそういうものだ。

浅井

やはり本体があることによって成立する。昔パリで撮影しているとき、商店街の最上階に従業員が寝泊まりする部屋があって、そこはトイレがシャワールームだった。どうやってシャワーを浴びるかというと、便器の上に板を置いてシャワーを浴びる。お店やきらびやかだけれど、そこで働いている人だけが知っている小部屋がある。そこにはある種の面白さと、不思議な感情が湧いたことを覚えている。パリってこういうドラマがある。

涌井

東京、日本にありがちな死んだスペースを蘇らせる方法があるのは面白い。

金田

もっと猥雑感を出していればよかった。パラソルがあって明るすぎる未来。でも着眼点はすばらしい。

涌井

これを何賞にしようというのではなく、浅井さんの問いかけに対して、合致するのは何があるかというと、こういうものがあるということを浅井さんに確認してもらいたかった。

浅井

的確だったので、その提案はよかったと思う。そうするかたちでしかこの審査会が面白くなる方法がない。作っている人たち、次代の人に誠意を見せるなら、議論があった果てに決まることが好ましい気がする。

涌井

いかにもすぐできそうなのは、外したらいい。

事務局

では外すものを選んで下さい。まず電車(0029)はない。

金田

電車(0029)はアルミだったらこういう作り方もある。CLTだったらこういう形になる、というのなら面白い。

事務局

すぐにできるものは外すということでは、トイレ(0009)

金田

本棚(0010)も。パーティション(0019)もできる。

涌井

チェア(0015)も。

金田

棚やチェアは、CLTではなく普通の積層合板でいいレベルのもの。

事務局

先ほどのニューヨーク(0050)の。

涌井

これは誰が見てもわかる。

事務局

今話題になっているコンクリートブロック(0054)

金田

これは素晴らしいアイデアなので、実現の方へ。

事務局

むしろそちらの方へ。

金田

本当にやるべきだと思う。

涌井

CLTの良さは、組み合わせることによって転倒しない。しかも重量があるからそれを逆手にとって考えれば実現の方に入れてほしい。

事務局

実現の方はオフィスビルという題がついているので、そちらに応募することはできない。

金田

特別賞のようなことかもしれないし、今回の趣旨とは違う。これはCLT協会でサポートしたらいい。

浅井

アウトドアの体育館のような平面をつくれば、ボールゲームなどなんでもできる。

事務局

体育館の実例は今のところありません。

浅井

アメリカではバスケットボールのハーフコートが海岸線に並んでいる。CLTの床があれば、サッカーもテニスもでもできる。それは風景としても美しいし面白い。

涌井

これ(0054)。が実現できたら、ポップアートキャンバスにもいい。つまり合法的いたずら描き。サブカルチャーがないとメインストリームが生まれない。極端なサブカルは骨があるからメインストリームになる。今日本はサブカルを大事にしなくては。

浅井

それがテーマになっていた時代があった。
例えばトイレでありながらトイレでなくなるような、例えば織部のトイレのような表現の面白さ。本来の目的があっても、そうでなくなるくらいのエレメントがあると面白い。これだけでは面白くなくても文明の中のポジショニングでどうにでもなるという面白さが必要だと思う。

涌井

琉球時代の骨瓶を床の間に飾ったり。

事務局

一つのものに一つの機能ではなく、裏と表をつなぐことにCLTの可能性があれば面白い。

涌井

線路(0026)ももったいない。線路まではよかったけれど、その上に走るものが実は大事で、そこにあったらすごく面白い。

金田

枕木のそのままなのがもったいない。せっかくCLTだから全然違うものになっていれば。

涌井

板の上にレールが載っていれば面白かった。そこにCLTで作った手押しで走らせる台車があれば。

事務局

これもおしいの方へ。

金田

もったいない。

事務局

もったいない賞をつけますか。

事務局

これはない、というのを。

涌井

おしいのは端材の森(0005)。本体をどこに使ったがない。

金田

シニカルな感じでアプローチとしてはすごくいいが、本体があって、端材でこれを作ったというのがあれば。

事務局

では、おしいへ。

金田

CLT Building Vision(0021)は設計部門の方へ。

涌井

だんじり(0032)は西条市に限っている。飛騨でも京都でもだんじりや山笠を収納する蔵は、それがあることが町の誇りでありコミュニティの象徴。
今の日本の町に足りないものは地域に対する愛着、誇り。だんじりとか決めないで、こういう形だったら大架構の可能性があるからCLTが合う、町に地縁社会を再構築するようなことが提案の背景にあれば。西条市に限定すると矮小化してしまう。
浅井さんが言ったように技術的解決ではない、人間社会の根源的な課題にCLTがどう解決するか。上手にリードすればうまいはまり方をするのに。

事務局

大事なところが抜け落ちている。

涌井

どこで発想しているのか。根源的なところで発想して行き着いたのか、なんとなく思いついたのか。

金田

スタートはこれでいいと思う。もう一回よく考えて欲しかった。

浅井

使い方を含めて、どうつながっていくのかが見えない。

涌井

コンセプチュアルな絵でモデルが一つ出てくれば分かる。

事務局

コンペなので伝えることを問われている。深読みすることも大事だが、そこで分かれてくる。

金田

気に入ったら拡大解釈をしてもいい。

涌井

タテヨコ(0041)もよく分からない。

金田

既存の超高層は縦方向だけがつながって横が切れるから、CLTで横をつなぐという発想は悪くない。表現は楽しくない。

涌井

描かれている建物がCLTに媚びない建物だったらなお良かった。

金田

無理に木の格子がついているのがもったいない。

浅井

でもいいところまで来ているので無視はできない。

金田

床をCLTで大胆に作るのはいい。けれど表現が下手。CLTの床の表現が暗くて魅力的ではない。

涌井

コンクリートのビルとガラスのビルを、高層部で木質系の床で有機的に結合するのは悪くない。

浅井

ホタル(0028)は絵が悪すぎる。そこでホタルを見たくない。

涌井

音がしたらホタルが逃げてしまう。

涌井

シェル構造(0040)は、絵はよく描けているけどCLTを尊敬していないと思う。

金田

現実的にはCLTに向いていない。

涌井

皮肉な答え。重くて曲げ加工もしにくい。災害時によいと書いてあるがどうやって運ぶのか。ブラックユーモア賞?

金田

(0016)は何ができるのかが書かれていない。これがあって何がよくなるかを示してほしい。

涌井

カマボコ兵舎のような(0037)のは何?

金田

湾曲もしているし、CLTに向いていない。

金田

折り紙(0004)の美しさは、折るところ。折っていないものをくっつけて折り紙と呼んではいけない。

涌井

一枚からできるところが美しい。

金田

折り紙を建築にというのは結構ある。でもスケールアップがなかなかできない。紙はすごく特殊で魅力的な素材。

浅井

紙でやることを乗り越えられないならやる意味がない。

事務局

強度のないものを折ることによって、強度が生まれたのではない。そもそも強度がある。

金田

ふたたび、森と(0030)はアウトプットがない。海(0018)もすごくいいが、似ている2015年の第1回コンテストの最優秀賞作品の方がもっといい。

涌井

海(0018)は一番にはできないが、捨てきれない。3・11以降に背の高い防潮堤がたくさんできたが、実は見えない水面の下まで続いている。それが地下水を止めて磯焼を引き起こし、地域の漁業に深刻な被害が起きている。
この作品のように海中に無柱な空間ができることはすごく意味がある。

涌井

最優秀賞はCLTP(0035)かな。

浅井

そうだね。

金田

はい。

事務局

審査員賞を一人ひとつずつ。

涌井金田

タテヨコ(0041)

浅井

海(0018)

浅井

今回本当に難しかった。今の話を公表しても出した方にも問題ない内容だった。

金田

惜しいと言ったのは、どこが惜しかったかをはっきり書いた方がいい。

浅井

時代に対するプレゼンテーションになることを求めていたわけだから、選ばれたものはそれにかなっていた。コンペはそういうものであってほしい。

事務局

CLT協会のコンペの方向付けをしていただけた。

浅井

最優秀賞の物語を皆さんがそれぞれ持っていた。それが今日のコンペの特質でありいいところだった。

涌井

芸術はその時代の感性価値を現す。それを表現するためにテクニックという術をさらす。当面の課題を解決する技術ではなく、社会課題をどう解決するのか。残ったものはそう。

浅井

それが前向き、積極的なところがある。こうやって3つ残されたものを見ると、価値が見えるのでよかった。

金田

便利だけでなく、それでハッピーになれるか。

浅井

人間は、現実の貧しさをイマジネーションによって豊かさに変えることが出来る。人間の中にはそういうものがある。そういうところを忘れないでほしい。

涌井

このコンテストの意味づけをしていただいた。

審査の様子